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よっつのみやこ

四つの都

織田 作之助

「映画評論 第一巻四号」1944(昭和19)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,005 字 · 62 页

青空文庫

五 矢野名曲堂。

夜店出し「早かったどころかいな。今日は休みや。場割りが済んで、さあ店を張ろうとおもたら、降って来やがったさかい……夜店出しもこう雨が多かったら、さっぱり売にならんわ」

夜店出し、露地の中へ入ってゆく。

新吉、繃帯をとり終って、家の中へ這入る。

途端に店の中の音楽が聴える。

五 矢野名曲堂。

古い名曲レコードの売買や交換をしているこぢんまりした店である。ベートーヴェンのデス・マスクの他に船のウキが壁に掛っているのが印象的である。

客が音楽をきいているので、新吉は口を利くのを憚って、黙ってこそ/\と奥へはいる。ビッコの気味。

鶴三も、黙って「お帰り」は眼で言っている。

音楽(第五交響楽)がやんだので、鶴三は、はじめて声を掛ける。

鶴三「新坊、怪我したんじゃねえか」

新吉(振り向いて)「うゝん、せえせん」

そして、こそこそ奥へはいる。

鶴三「それならいゝが。明日は名古屋の工場へ行くんだ。どこも痛い所のないようにして行かなくっちゃ働けねえぞ」

客は始めて口を利く。客というのは蜂谷十吉だ。

十吉「葉子ちゃん、今日はなぜ雨が降ってるか、知ってるかい」

葉子「誰かゞ来てるさかいやわ」

十吉「誰かって、誰だい?」