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よっつのみやこ
四つの都
織田 作之助
「映画評論 第一巻四号」1944(昭和19)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,005 字 · 62 页
八 第二の汽車。
新吉頷く。日月ボールを頻りに弄ぶ。
鶴三「きいてるな」
新吉「うん」
鶴三「家を恋しがるんじゃねえぞ、父っちゃんは十二の歳から船に乗ってたが、印度洋の真中でも、大西洋を渡る時でも、太平洋の上でも、一遍だって家を恋しがった事はなかったぞ」
新吉「あ、汽車が停った」
窓をあける。
駅員の声(マイクを通して)「米原。米原。五分間停車、北陸線乗換え、敦賀、直江津、新潟方面行の方は右の階段を登って、三番線の列車にお乗換え願います、乗換時間は十七分、十六時五十分発二三等急行東京行き! 東京行き! この列車にお乗りの方は……」
鶴三「弁当買おうか」
窓から顔を出す。
新吉「あ、向うにも汽車が停ってる!」
八 第二の汽車。
その二等車の窓があいて、帰還姿の軍医中尉、中瀬古庄平がぬっと顔を出す。
庄平「おい、弁当!」
処が、弁当を売ってるのは反対の窓である。
庄平、苦笑しながら、反対側の窓へ寄って行く。
そして、窓から身体を乗出す。
弁当売りは却々やって来ない。
発車のベルが鳴り始める。
庄平(いきなり怒鳴る)「弁当屋! 駈足!」
弁当売り慌てゝ飛んで来る。……
汽車はもう動いている。
庄平の座席の向いの席では、洋装の女即ち辻節子が、小型の旅行携帯用の将棋盤を洋装の膝の上に載せて、頻りに詰将棋を考えている。