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よっつのみやこ

四つの都

織田 作之助

「映画評論 第一巻四号」1944(昭和19)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,005 字 · 62 页

青空文庫

一三 庄造の書斎。

庄平「そうですか」

水道の栓に口をつけて、水をふくみ、うがいする。

庄造「お前の狸算用よりは尠いかも知れんぞ」

庄平「はあ……?」

庄造「変な顔をするな。然し、わたしが永年教師勤めをして、その俸給で食って来たから、親父から受けついだ分は減らしてないようだ」

庄平「それを今そっくり僕に下さいますか」

一三 庄造の書斎。

永年高等学校の教授をし、現在もしているひとの書斎だという事が、一眼に分る。ギッシリ詰った書棚、机の上には今にも落ちそうな位大小無数の書物が積み重ねてある。机の上だけではない。部屋中至る処に、然もかなり乱雑に積まれている。

仏像の胸像が机の上に、二つも三つも載せてあるのが印象的である。

庄造と庄平が椅子に掛けている。

庄造「つまり何かやりたいんだろう。それなら、いつでも財産は譲る事にしよう」

庄平「恐縮です」

庄造「その代り、というより寧ろ、同時にだな、お前はもう一つ貰うべきものがある」

庄平「僕はこれで充分です……」

庄造「まだ何を貰うとも、わたしは言っておらんよ」

庄平「じゃ、何を下さるんですか」

庄造「細君だ」

庄平「誰のですか?」

庄造「誰のですかってきく奴があるか、お前のだよ、そゝっかしい癖は相変らずだな」