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わらわのはんせいがい

妾の半生涯

福田 英子

「妾の半生涯」東京堂、1904(明治37)年10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 64,051 字 · 122 页

青空文庫

三 八軒屋

殊に神戸停車場にて、この鞄を秤にかけし時の如き、中にてがらがらと音のしたるを駅員らの怪しみて、これは如何なる品物なりやと問われしに傷持つ足の、ハッと驚きしかど、さあらぬ体にて、田舎への土産にとて、小供の玩具を入れ置きたるに、車の揺れの余りに烈しかりしため、かく壊されしことの口惜しさよと、わざわざ振り試みるに、駅夫も首肯きて、強いては開き見んともせざりき。今にして当時を顧みれば、なお冷汗の背を湿おすを覚ゆるぞかし、安藤氏は代々薬屋にて、当時熱心なる自由党員なりしが、今は内務省検疫官として頗る精励の聞えあるよし。先年板垣伯の内務大臣たりし時、多年国事に奔走せし功を愛でられてか内務省の高等官となり、爾来内閣の幾変遷を経つつも、専門技術の素養ある甲斐には、他の無能の豪傑連とその撰を異にし、当局者のために頗る調法がられおるとなん。

三 八軒屋

大阪なる安藤氏の宅に寓居すること数日にして、妾は八軒屋という船付きの宿屋に居を移し、ひたすらに渡韓の日を待ちたりしに、一日磯山より葉石の来阪を報じ来り急ぎその旅寓に来れよとの事に、何事かと訝りつつも行きて見れば、同志ら今や酒宴の半ばにて、酌に侍せる妓のいと艶めかしうそうどき立ちたり。