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わらわのはんせいがい

妾の半生涯

福田 英子

「妾の半生涯」東京堂、1904(明治37)年10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 64,051 字 · 122 页

青空文庫

二 板垣伯に謁す

に応ずと言い繕いて、一週間ばかりの暇を乞い、翌日家の軒端を立ち出でぬ。実に明治十七年の初秋なりき。

二 板垣伯に謁す

友人の家に著くより、翌日の大阪行きの船の時刻を問い合せ、午後七時頃とあるに、今更ながら胸騒がしぬ。されど兼ての決心なり、明くれば友人の懇ろに引き止むるをも聴かず、暇乞いして大阪に向かいぬ。しかるに妾と室を同じうせる四十ばかりの男子ありて、頻りに妾の生地を尋ねつつ此方の顔のみ注視する体なるに、妾は心安からず、あるいは両親よりの依托を受けて途中ここに妾を待てるには非ざる乎と、一旦は少なからず危ぶめるものから、もと妾の郷を出づるは不束ながら日頃の志望を遂げんとてなり、かの墻を越えて奔るなどの猥りがましき類ならねば、将た何をか包み秘さんとて、頓て東上の途中大阪の親戚に立ち寄らんとの意を洩らしけるに、さらばその親戚は誰れ町名番地は如何になど、執拗ねく問わるることの蒼蝿くて、口に出づるまま、あらぬことをも答えけるに、その人大いに驚きたる様子にて、さては藤井氏の親戚なりし乎、奇遇というも愚かなるべし、藤井氏は今しこの室にありしかど、事務員に用事ありとて、先刻出で行かれたり、いでや直ちに呼び来らんとて、倉皇起って事務室に至り藤井をば呼べるなるべし。