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わらわのはんせいがい

妾の半生涯

福田 英子

「妾の半生涯」東京堂、1904(明治37)年10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 64,051 字 · 122 页

青空文庫

三 縁談

当時母上の戯れに物せし大津絵ぶしあり。

すめらみの、おためとて、備前岡山を始めとし、数多の国のますらおが、赤い心を墨で書き、国の重荷を背負いつつ、命は軽き旅衣、親や妻子を振り捨てて。(詩入)「国を去って京に登る愛国の士、心を痛ましむ国会開設の期」雲や霞もほどなく消えて、民権自由に、春の時節がおっつけ来るわいな。」

尋常の大津絵ぶしと異なり、人々民権論に狂せる時なりければ、妾の月琴に和してこれを唄うを喜び、その演奏を望まるる事しばしばなりき。これより先、十五歳の時より、妾は女の心得なかるべからずとて、茶の湯、生花、裁縫、諸礼、一式を教えられ、なお男子の如く挙動いし妾を女子らしからしむるには、音楽もて心を和らぐるに若かずとて、八雲琴、月琴などさえ日課の中に据えられぬ。されば妾は毎日の修業それよりそれと夜に入るまでほとんど寸暇とてもあらざるなりき。

三 縁談

十六歳の暮に、ある家より結婚の申し込みありしかど、理想に適わずとて、謝絶しければ、父母も困じ果てて、ある日妾に向かい、家の生計意の如くならずして、倒産の憂き目さえやがて落ちかからん有様なるに、御身とて何時までか父母の家に留まり得べき、幸いの縁談まことに良縁と覚ゆるに、早く思い定めよかしと、いと切めたる御言葉なり。