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わらわのはんせいがい

妾の半生涯

福田 英子

「妾の半生涯」東京堂、1904(明治37)年10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 64,051 字 · 122 页

青空文庫

何気なく閉じたる目を見開けば、こはそも如何に警部巡査ら十数名手に手に警察の提燈振り照らしつつ、われらが城壁と恃める室内に闖入したるなりけり。アナヤと驚き起たんとすれば、宿屋の主人来りて、旅客検なりという。さてこそ大事去りたれと、覚悟はしたれど、これ妾一人の身の上ならねば、出来得る限りは言いぬけんと、巡査の問いに答えて、更に何事をも解せざる様を装い、ただ稲垣と同伴せる旨をいいしに、警部は首肯きて、稲垣には縄をかけ、妾をば別に咎めざるべき模様なりしに、宵のほど認め置きし葉石への手書の、寝床の内より現われしこそ口惜しかりしか。警部の温顔俄に厳めしうなりて、この者をも拘引せよと犇くに、巡査は承りてともかくも警察に来るべし、寒くなきよう支度せよなどなお情けらしう注意するなりき。抗うべき術もなくて、言わるるままに持ち合せの衣類取り出し、あるほどの者を巻きつくれば、身はごろごろと芋虫の如くになりて、頓て巡査に伴われ行く途上の歩みの息苦しかりしよ。警察署に着くや否や、先ず国事探偵より種々の質問を受けしが、その口振りによりて昼のほど公園に遊び帰途勧工場に立ち寄りて筆紙墨を買いたりし事まで既に残りのう探り尽されたるを知り、従ってわれらがなお安全と夢みたりしその前々日より大事は早くも破れ居たりしことを覚りぬ。