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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

妙齢の、それもかなり眼立つ美貌の少女が、駕の屋根の上に乗って、そのまま行進するというのは、いかに天下の大江戸でも、そう例は多くないと思う。

日本橋の上のことで、たちまち往来の人々の眼を集めた。みんな立停って、呆れかえったように、なかには、なにか芸当でも始めるのだ、と誤解した向きもあるらしい。がやがやと騒がしく寄って来る者もあった。

「乙女さま」

和助はうろたえた。

六尺もまごつくばかりであったが、そこへ、登世の駕といっしょに先へいった、柳沢家の侍が二人、慌てて駆け戻って来た。それを見て、和助は観念し、駕をやれ、と六尺をせきたてた。

花世がそう決心したら、じたばたしてもむだである。このうえ侍たちがつまらない小言でも云うと、どんなふうに曲りだすかしれない。花世には柳沢の侍など眼中にないし、むしろ軽侮しているくらいである。

「どうぞ、なにも仰しゃらないで下さい」

駆け戻って来た侍たちに、和助はこう囁いた。

「すぐ飽きますから」

駕は行進を始めた。

往来の左右には人垣ができ、横丁からとびだして来る者もあった。花世は駕の上で、さも涼しげに、小扇で日をよけながら、これらの騒ぎを眺めおろし、ゆうゆうと揺られていった。