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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

花世には初めての繁華な眺めであった。

「ここはどこ、この橋はなんというの」

駕の中から、すぐ脇に付いている和助に、絶えず質問をしかける。槍持ちの供をつれ、馬に乗った侍などが通ると、あれはどのくらいの身分で、直参か陪臣か、旅へ出るのか、ただの外出か。などと飽きずに追求した。

「あら、これが日本橋、あら、ちょっと駕を停めてみせて」

「どうなさるのですか」

「見てみるのよ、日本橋なんですもの」

「帰りにごらん下さい、唯今はそうしている暇がございません」和助はちょっと厳しく、「それから、もう少しお静かにあそばせ、通行の者にみな聞えてしまいます」

そう云った。すると花世は、彼よりもっと厳しい声で、駕をお停め、と命じた。

駕は停った。

「おろしてお呉れ」

すっかり気を悪くしたらしい、容赦をしない調子だし、その声も少女に似あわず激しかった。駕がおりると、花世はすっと外へ出た。そして、中から敷物を取って、駕の上に置き、その上へ身がるに登って、なんと、横さまに腰を掛けてしまった。

「さあやってお呉れ」

これはゆきすぎであろう、ゆきすぎも程度を越している、といえるかもしれない。