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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
待伏せがいるとすれば、すぐみつかるし、隠れようもなかった。
だが案じたような事も起こらず、村田は無事に茶屋へはいって来た。
「青山が捉まったよ」
階段口までいって、半之助がそう云った。暑さで少し痩せてみえる平四郎は、いつもの、少しも動じない眼つきで、半之助の話を頷きながら聞き、「すぐ手配をしよう」と低い声で云った。
「心配しなくっていい、かれらには、なにもできやしないんだ」
「しかし村田も帰るほうがいいんじゃないか、家へいってみていないと、かれらはまた此処へ来ると思うが」
「大丈夫だよ」
背の高い平四郎は、ちょっと前跼みになるような歩きぶりで、座敷へはいりながら、重兵衛と松室に挨拶し、本のはいっているらしい、風呂敷包を、半之助に渡した。
「これを参考に読んでおいて呉れないか、新井白石の書いたものの写本だがね、まだ板行されていないんだが、東雅という題の書物で、巻の十三から十六まである、穀類菜類から、草木の部まで、字解や類別だけだけれど、そのうち本草綱目をやるときに便宜だから」
半之助はふきげんに包を受取った。
それから酒になったが、平四郎の云ったとおり、終るまでなにごともなかった。