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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

――降りださないうちに来ればいいが、なにをぐずぐずしているんだろう。

そんなことを思いながら、いつかしらうとうと眠りかけた。小屋のほうから急調子の囃しと、観客のざわめきとが、幕間を告げるかのように、賑やかに聞えてきた。芝居は二代目市川団十郎の立役で、曽我狂言がたいそう当り、月を越しても、連日の大入だし、通例なら休む季節であるが、この月いっぱいは続演する、ということであった。

半之助が殆んど眠りかけたとき、人の来るけはいがして、眼をさまされた。

「やっと来たか」

そう呟いたが、そうではなくて、一つおいた向うの座敷の、客であった。

半之助はそのまま眼をつむっていた。しかしまもなく、その座敷のほうが気になりだした。人の立ち居のけはいはするが、話し声が聞えないのである。二三人はいるらしい。しばらくしても、なんの声も聞えないし、どうやら摺り足で出入りするのが、へんにものものしく耳についた。

――なに者だろう。

半之助はそっと眼をあけた。頭をあげなくとも横になったままで、そこは透けてみえた。そして、そちらへ眼を向けるなり、彼は息をのんだ。

その座敷のまん中に、若い女が、素裸になって立っていた。