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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)が、それまでの出来ごとを証明するかのように、ぽつんと置かれてあった。

彼の眼は、その半※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)の、金蒔絵にした定紋に、吸いつけられていた。簾戸ごしなので、はっきりとはわからないが、なにかの鳥の翼をひろげたような、菱形を集めたかたちの、珍しい紋であった。

――どこかで見おぼえがある。

彼は漠然とそう思った。だが意識はそこに止ってはいなかった。すはだかになった女の肌の白さや、重たそうなまるみや、おどろくほど逞しい腰部や、そしてすでに印象のぼやけた、異様に美しい顔や、きらきらする双眸などが、幻想のひらめきのように、現われては消え、また現われては消えした。

雷鳴は続いていた。暗い座敷の中は、ときに眼のくらむような閃光ではじけ、あらゆる物をひき裂くかのように、雷鳴が頭上でとどろき狂った。

芝居茶屋で、女が裸になって汗を拭く、というくらいのことは、決して異常ではない。また、それを見たということも、稀な機会ではあるかもしれないが、あり得ないほどの偶然ではないだろう。