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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
彼はくすくす笑った。
「本当は私がちょっとかまをかけたんですよ、すると正木重兵衛氏がみごとに口をすべらしましてね、たちまち感づかれてしまったというわけです、じつにわる気のない、愛すべき人だと思いました」
「そのとおりだ」半之助はわきを見て云った、「みんなわる気のない人間だよ」
「そしてみんながお互いに信頼しあっている」千之助は従兄の皮肉などそ知らぬ顔で、「私はほんのしばらく話しただけですが、すぐにわかりましたね、みなさんの固い純真な友情のつながり、といったものがです、じつに素朴で美しいと思いましたよ」
「――――」
「あれですか、みなさんはどういう関係でお知合になられたんですか、学問所ですか」
「話というのはそのことか」
「むろんそうじゃありませんが、ちょっと珍しかったし、この軽薄な、ごまかしだらけの世の中に、どうしてこんな友情が生れたか、ちょっと興味を唆られたんです」
「――空雷かな」
雷鳴の遠のいてゆく空を見やりながら、半之助は独り言のように呟いた。あれだけひどく鳴って、空もまっ暗になったのに、雨の来るようすはなく、切れめの出た雲のあいだから、しだいに青空のひろがってゆくのが見えた。