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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

佐枝はきれいに髪化粧をし、白い桔梗の花束を持って、母のあとから、さわやかに笑いながら、客間へはいって来た。まるでこの家の者のように、こだわりのない態度で、主馬にも馴れた挨拶をし、「わたくしが丹精して咲かせましたの、きれいでございましょう」

などと花を見せた。

「これをお床へ活けますから、そうしたらお給仕を致しますわ、もう少しお二人で召上っていらっしゃいませね」

「それは有難いですが」主馬が代って答えた、「友達と集まることになっているので、お帰りを待っていたんです、貴女のお給仕で頂けるとわかっていたら、べつの日にしたんですがね、ひじょうに残念です」

「半之助さまもごいっしょ」

彼女はきらっとこちらを見た。じかに名を呼ぶとは不躾である、彼は黙って頷いた。

佐枝は明らかにむっとしたらしい。しかし勝ち気な性分で、そんな顔色をみせては、自分の負けだと思ったのだろう。

「またお逃げになるのね」と笑いながら睨んだ、「法事の日のように、……お隠しなすってもだめよ、ちゃんとわかるんですから」

「てきびしいですね」

主馬は苦笑し、あえて弁解はしなかった。

母がそばから、なにか眼まぜをしていた。