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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

たぶん、おまえだけは残れ、というのであろう、半之助はそっけない顔で、佐枝が出てゆくとすぐに座を立った。

外はまだ日が暑かった。

「自信まんまんたるものだね」

扇子で日を除けながら、主馬がそう云って、ちょっと口ごもった。

「あの人はすっかり裸にして、躯の内部までひっくり返してしらべても、ひけめとか羞恥などという感情は欠けらもない、というふうだ」

それから笑いながら、「しかし悪くはないな、ああいう女性は良人を出世させるよ、家政のきりもりも上手だろうし、客あしらいはうまいし、上役なんぞを籠絡するのは巧みだろうし」

「気にいったら青山の嫁にするがいい」

半之助はやり返した。

「おれは聞くのもたくさんだ」

虎の門そとの辻で駕をひろい、汐止の橋から木挽町へ出て、築地のほうへ向った。まさか山村座ではあるまい。こう思いながら、半之助はふと、ついこのあいだ見た、茶屋の出来ごとが眼にうかんだ。いましがた主馬が、――あの人を裸にして。と云った言葉が、頭に残っていたためかもしれない。

肌のもの一枚も着けない、つややかな、柔らかそうな裸身、三人の若者に、平然と躯じゅうの汗を拭かせていた姿。