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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
冲左衛門は筆を置いて、「では今日はこれまでにして、また明日にでもまいるとしよう」
こう云って、帰り支度をした。
権之丞は冷やかに見ていた。登世も諦めたのだろう、とりひろげた物を片づけ、冲左衛門を渡り廊下の口まで、送りだした。
「おはいりなさい」
戻って来た登世は、こう云って、自分は上座に坐った。それから、権之丞の挨拶を聞きながして、「手紙は見たけれど、あれでは要領がわかりません、いったいお父さまは、どうしろと仰しゃるのですか」
「殿さまは御病気でございます、それでなくとも、江戸の御滞在がながすぎます、一日も早く甘利へお帰りあそばすようにと」
「いいえ、いやです」
「――いや、と仰せられても」
「いやです、帰りません」
「なぜでございます」権之丞はきっと眼をあげた、「三年まえに江戸へおいでなされてから、これだけの人数をお側にとめ置き、巨額な金品を浪費あそばされ、さきごろは、乙女さまをもたってお呼びよせになったまま、お返しなさらぬ」
「花世も江戸へ置きます」
「なんのために」権之丞はたたみかけた、「今日こちらへまいって拝見すれば、このような法外なお住居を建て、武家方などと往来しておいでなさる、いかなる御思案であるか、とんと合点がまいりかねます」