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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

ん」

こう云って登世は、いちど片づけた巻物の一つを持って戻り、「これを見てごらん」とそこへさしだした。権之丞はひろげてみるなり、ああと云った。

「これは、お家の御系図ではございませんか」

「始祖のところをあけてごらん」

権之丞は巻物の巻首を繰りひろげた。すると登世は、べつに巻いてある、新しい紙のほうをひろげ、「これは柳沢家の系図です、つきあわせてごらんなさい、五代の信光は武田五郎といって、大膳大夫信義からわかれたことになっているでしょう、信義はみどうの初代、あきらかに武田氏の直流ということになります」

「しかしこれは、このような御一族系譜は、これまでついぞ聞いたことがございません」

「その筈です」

登世は声をあげて、短く笑った。権之丞はその意味を察したのだろう、はげしく、咎めるように登世を見た。

「まさか、比女さまがさようなことを」

「いいではないか、何百年の昔のことを、少しばかり書き替えたところで、誰に迷惑を及ぼすわけではなし、系図の偽作は、このごろの流行といってもいいくらいです」

「それでは柳沢侯を……」

「わかったでしょう、登世が江戸へ出て来たのは、あの方が甲府城主になったからです、百石そこそこの小身から、表高十五万余、松平の御家号と諱字まで頂き、一族みな権勢の座を占めるという、なみはずれた御出世をなされた、……