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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

「乙女は笑われてはいないわ」

「舟をやって呉れ」

「いけない、停めてお置き」彼女の眼はきらきら光った、「あの男たちはなんと云ってるの、なんと云って乙女を笑ってるの、大助」

若者は当惑した。

釣舟の男たちはなお、卑しいことを喚いている。そんなときの悪口は、たいてい定ったものであるが、かれらのはもっと直截で、はるかに露骨であった。

「云えないの、大助」彼女は叫んだ、「云えないようなことなのね」

「乙女さま、どうか」

よし、と彼女は云った。そして、大助という若者が手を出すより早く、さっと水の中へ、きれいな型でとびこんだ。

「花世さま」

若者はまた叱るように叫んだが、花世の姿はもう深い水の下にあった。船頭はうろたえて、ぐいと舳先をまわした。

「冗談じゃねえ、どうなさろうてんです」

「ずっとやって呉れ、いやちょっと待て」

大助は手で船頭を抑えた。若い女主人が、なにをしようとするか、彼にはふと想像がついたらしい、それで、こんどは慌てて手を振り、「舟を向けなおせ」と云った。舟を向けなおして待とう、というのである。そして、それはじっさい機宜を得ていた。

向うの小舟では、まだなにか云いながら、しかし半分はきみわるそうに、みんなで海面を覗いていた。