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さこんのいかり
左近の怒り
「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页
「チェッ! 誰より血相変えたのはお前じゃないか」
とタコスケが赤くなって怒ったのは名タンテイの誇りを傷けられたせいらしい。
左近も千葉ウジをとり逃したのは残念だと思ったが、洋次郎の話では給仕女が葉子なぞは来ていないとシラを切ったというから、ここも伏魔殿の出張所で、とうていここで千葉ウジを捕える見込みがつかなかったことは察せられるのである。
しかし左近は女も敵の一人だということを洋次郎のように割りきる気持にもなれなかった。この娑婆は海の底よりもよほど複雑怪奇にみちているらしいから、女主人が敵の土足のジュウリンにまかせて自宅から退却したり、翌日はまたノンビリと自宅に戻っていることができたりしても、これは戦争にだってよくあることだから必ずしもフシギだとは云えない。要するに彼女の味方のエンゴ射撃が鞏固な時には自宅に戻ってノンビリできるのが当然なのである。
しかし、女が夏川左近の名を知っていたのは、なぜだろう? 東京のあらゆる住人の名を知っていても、彼の名こそは知られないのが当然なのである。これが何よりのフシギだ。そして左近を助けるとはなぜだろう? つまり自分が左近をマキゾエにしたために彼を危険にさらすことになったから助ける義務があると考えているのだろうか。