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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

断末魔の雄獅子

断末魔の雄獅子

三十二、三歳に見えるやせ型の男が、張ホテルの玄関をはいって、カウンターのうしろの支配人室へ踏みこんでいった。

ずんぐりと背が低くて丸々と太ったちょびひげの支配人がデスクに向かって帳簿をいじくっていた。そばの灰ざらにのせた半分ほどになった葉巻きから、細い紫色の煙がほとんどまっすぐに立ちのぼっていた。ハバナのかおりが何か猥※な感じで漂っていた。

「来ているね?」

やせ型の男がニヤッと笑ってたずねた。

「うん、来ている。もう始まっているころだよ」

「じゃあ、あのへやへ行くよ」

「いいとも、見つかりっこはないが、せいぜい用心してね」

やせ型の男はネズミ色のセビロを着て、ネズミ色のワイシャツ、ネズミ色のネクタイ、くつまでネズミ色のものをはいていた。どんな背景の前でも最も目だたない服装であった。かれはまったく足音をたてないで階段を駆け上がり、二階のずっと奥まった一室のドアをそっとひらいて、中にすべりこむと、電灯もつけず、一方の壁にある押し入れの戸を用意のカギでひらき、その中へ身を隠した。

まっくらだけれど、かれはそのへやの構造を手にとるように知っていた。