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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
老人が客を連れてここにいることを、よく知っている様子である。
老人のほうでも立ちあがって、その男を迎え、何かボソボソと立ち話をしていたが、やがて影男の殿村のほうに向き直って、やっぱりささやき声で、その黒い男を引き合わせた。
「これからは、この人が案内係です。お金は、あとで、この人に渡してください。わしはここで失礼します」
「この人はだれですか」
影男がたずねると、老人は手を振って、
「名まえなんかありません。ただ、あんたを不思議の国へ案内する人です。不思議の国には、たくさんの人間がいますが、だれも名まえはないのです。あんたのほうでも、名まえを名のる必要はありません。この男は、わしを信用して、あんたを受け取る。あんたはこの男を信用してついていけばよいのです。これがすなわち冒険の妙味ですよ」
老人はニヤニヤと笑ったらしい。そして、そのまま、どこかへ立ち去ってしまった。
あとに残った黒シャツの男は、影男の手をとって、
「どうか、こちらへ」
といいながら、鉄ばしごのほうへ導く。その声はまだ若々しく、三十前後の感じであった。
だまってついていくと、鉄ばしごを渡り、円筒の上にのぼった。