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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

やはり、天才を要する事業です」

「いや、おほめで恐れ入ります。まったくさようでございますね。大軍を指揮する注意力と才能がいります。そこが楽しいところでございます」

「ここへは、女のお客はありませんか」

「一度だけございました。お金持ちの未亡人で、まだ四十に間のある美しいおかたでした」

「その注文は?」

「有名な俳優とか芸能人は、いつでも思うままになるから珍しくないとおっしゃるのですね。角力とり、スポーツ選手、大学生、そういうものは、なで切りにしているような、おぞましいおかたでございました。そして、おっしゃるには、位人臣をきわめたおかたに、一度会ってみたいとおっしゃるのです。つまり、高官中の高官でございますね。

ところが、女のお客さまの場合は、どんなむずかしそうなご注文でも、こちらとしましては、実にたやすいのです。つまり、相手方を主人公にして、その好奇心をそそり、先方から望むようにしむければ、もう百発百中でございますね。ちょうどあなたさまが、あの白ひげのじいさんの誘いに乗ってここへおいでになったのと同じことです。適当な誘いてを使って、適当に誘惑すれば、偉い人であればあるほど、ひっかかりやすいと申すものです。