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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

その保証がなければ、この商売はなりたちません。大枚の報酬をいただくのですから、それは当然のことですよ」

「大枚の報酬というのは、いったいどれほど……」

良斎はなにげなく尋ねたが、その目にしんけんな色がちらっときらめいた。

「それも場合によります。仕事の難易と、依頼者の資産から割り出すのです」

「すると、わたしの場合は?」

たとえドアの外で家政婦が立ち聞きしていたとしても、ふたりの声はけっして聞きとれないほどの低さであった。

「篠田ですか、美与子夫人ですか」

「両方です。そのほかにもうひとりあります」

「あのまっくろな怪物ですか」

「そうです。あいつは、いったい、なんという名まえなんです」

「わたしにもわかりません。わたしが会ったときには佐川春泥という小説のほうのペン・ネームを使っていましたが、そのほかに速水荘吉、鮎沢賢一郎、綿貫清二など、いろいろの名を持っています。住所もそれぞれ違いますし、名によって、顔つきまで変わってしまうのです。変装の名人です」

「そんなやつが、きみの手におえますか。それに、その男はきみの会社の顧問のようなことまでやった関係がある。それでもやっつけることができるのですか。