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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
影男の佐川春泥は、厚手の縞セビロに、十九世紀のフランスの詩人がつけていたように大型のリボンのような黒いちょうネクタイを、胸にフワフワとさせていた。
かれはでき上がった書斎の家具などをさも楽しそうに見まわったあとで、おもやの玄関前に置いてあった自動車を、自分で運転して、遠く隅田川の河口に向かった。
午後二時ごろ、霊岸島の魚仙という舟宿に着いた。座敷に通ると、そこに約束しておいた殺人会社専務の須原正が待っていた。ちょっと一口やってから、ボートを頼んだ。船頭を雇うのはぐあいがわるいし、ふたりとも和船はこげなかったので、ボートを借り出してもらったのだ。
影男は、殺人会社の仕事はもうごめんだと思っていたが、須原から執拗に呼び出しの手紙が来た。影男の本拠の一つであるアパートへ数回手紙が来て、るす中の机の上に積み上げてあった。
影男はある理由から、それに応じることにした。極秘の話だというので、電話で打ち合わせて、海の上で話し合うことにした。
小男の須原は、力がないので、影男のほうがオールをあやつって、ボートをお台場のほうに向けた。
「遠くへ行くこともない。このへんでいいでしょう」