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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

あれほどぼくがいっておいたのに」

うしろから声をかけられて、じいさんはギョッとしたように振り返った。

「おや、あなたはさっきのおかた」

「しらばっくれてもだめだよ。せっかくの密室トリックも、すっかり種が割れてしまったんだからね」

紳士のことばがにわかにぞんざいになった。

「といいますと?」

じいさんはきょとんとしている。

「ハハハハハ、おしばいはうまいもんだね。だがね、さっきの死体がにせものだってことは、もう今ごろ、病院でばれてるころだぜ」

「え、え、なんとおっしゃる。あの死体がにせもの……」

じいさんは、ほんとうにびっくりした様子だ。

「ハハハハハ、おどろいているな。おい、じいさん、もうそのひげを取ったらどうだ」

「え、このひげを?」

まだしらばくれようとするのを、紳士はいきなりじいさんに飛びかかって、白い口ひげとあごひげを、むしりとってしまった。すると、その下から現われたのは、意外にも、殺人会社専務、須原正の泣きだしそうなしかめづらであった。

「須原君、さすがのきみも、まんまとしくじったね」

だが、須原には、この紳士が何者だか、まだ判断がつかなかった。

「で、あんたは、あんたは、いったいだれです?」