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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
それは若い女性の肉体から発散する香気であった。
三人は手近の一樹の幹に近づいて、こわごわそれを観察した。その幹は、裸女の肉体の密集からなりたっていた。おそらく、中心に一本の堅い棒が立っているのであろう。その棒の頂上からシュロの葉が四方にひろがっているのであろう。だが、幹は生きて動いている。棒の下から頂上まで、裸女がそれに取りすがって、折り重なり、ひしめき合っているのだ。そして、うごめく白と桃色とキツネ色の幹ができ上がっているのだ。
からだとからだとがすきまなく密着し、重なり合っているので、全体がなまめかしい曲線を持つ一本の太い柱になっている。古代インドの石窟の柱には、これに似た彫刻がきざまれていた。しかし、あれは動かぬ石の彫刻、ここのは生きてうごめく肉の彫刻である。
よく見ると、ひとりの女のわきの下にはさまれ、別の女の顔がこちらを向いて、にこやかに笑いかけていた。ひとりの女のゆたかなおしりの下に、別の女の乳ぶさが震えていた。腕と腕とがねじれ、足と足とがからまり、ある腕や足は肉の枝となって横ざまに伸び、ふりみだした黒髪は、巨木にまといつくツタカズラとも見えて、それらがつとめて静止してはいるのだが、若い生きもののことだから、むくむくと、絶えずどこかが動いている。