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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

「エッ、なんだって?」

「ガスのネジをひらいたり、レンガを積んだりしたときには、ふたりはもう、あのへやにはいなかったのだよ」

「バカなことを。おれたちは、絶えずドアの外で見はっていた。出入り口は、あのドアのほかには絶対になかった」

「見張ってはいたさ。きみとぼくと代わりあってね」

「エッ、代わりあって?」

「ふたりをあのへやに閉じこめて、きみはのぞき窓からしばらくからかっていた。いやがらせをいっていた。それから、川波良斎を迎えに行った。あとの見張りは、このぼくに任せておいてね」

小男の須原の目が、いっそうとび出した。そして、ウーンといったまま、二の句がつげなかった。

「あのすきに、ぼくはへやにはいって、ふたりを逃がした。ふたりは廊下の窓から出て、木のかげを伝って裏口へまわった。そこにぼくの部下が待ちうけていた」

「いや、ちがう。そんなはずはない。良斎をつれてきて、のぞき窓からのぞかせたとき、良斎がふたりの姿を見ている。見なければ、あいつが承知するはずはない」

「そこに、ちょっとからくりがあったんだよ。まあ手品だね。ぼくはズボンとスカートと二足のくつを、新聞紙に包んで、あの廊下の物置きべやに隠しておいた。