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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

「では、これから第二段の仕事をはじめます。上に化粧室というようなへやはないでしょうか」

「鏡と洗面台のあるへやがあります」

「ぼくとこの男とふたりは、しばらくそのへやへはいります。そのまえに、ふたりで小林の死体を上にあげましょう。それから、小林の着ていた服は、どこか上のへやに置いてあるのでしょうね。その服が入り用ですから、二宮さんは、それをわれわれの閉じ込もる化粧室へ入れておいてください。帽子やくつもですよ」

そうさしずをしておいて、影男とその部下とは、小林青年の死体を上の一室にはこんでおいてから、化粧べやに閉じ込もった。ふたりの夫人は、がらんとした応接間のイスに腰かけて、不安な顔を見合わせていた。

十五分もたったであろうか、突然応接間のドアがひらいて、ひとりの男がはいってきた。ふたりの夫人は、それを見るとまっさおになり、目が眼窩から飛び出すほど大きくなった。そして、イスにしばりつけられたように、身動きもできなくなってしまった。

そこに、死んだはずの小林昌二青年が、浅黒い顔をにこやかにほころばせて、立っていたからである。

「アハハハハ……」青年のうしろから、影男の顔がのぞいて、人もなげに笑った。