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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

一目瞭然じゃないか、みんな、その時間に家を動いていないのだ。ただ、モトを除いては、ね」

「ハ。御名答。御名答」

「よせよ。からかっちゃ、いけないよ。君は有りうると云うのかい」

「イエ、御名答と申上げているじゃありませんか。正しい言葉を邪推しちゃいけませんや」

私には、しかし、もっと腑に落ちないことがあった。しかし、うっかりこれを言うと、文学者という職業自体を甘く見られそうで、ためらっていたのである。

私は思いきって、訊いた。

「あなた方のような実際家に、こんなことを申上げると、笑われるかも知れませんが、まア、僕流の文学的観察によると、安彦氏はニセモノになるのですよ。人間性の問題ですね。復員の安彦氏は食い気一方で、みにくい姿を人目にさらすのをイヤがりながら、食慾につられて街頭募金に誘いだされたそうですね。僕も戦争中は食慾で参りましたが、世相を見ても、食慾のせいで一家の和合が破れていますね。盛りきり飯の盛り方が不公平だとか、年寄りのくせに食いすぎるとか、子供の菓子をお爺さんが盗んだ、とかね。肉親の愛情や色気よりも、食慾はもっと痛切ですよ。安彦氏がホンモノなら、倉田家の食生活に不自由のないことは知りすぎている筈ですよ。