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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

そこには、更に言外の意味があるようであった。もっと怖しい何かを博士は予知しているのではなかろうか。その、すさまじさが、私に次第にしみこんできた。無理もない。私の気のつくことが、おそすぎたのだ。誰も博士に箱根くんだりへ来てくれなどゝ依頼してはいないのだ。しかも博士は、やにわに、箱根を――いや、云うまでもなく小田原だ、小田原をさして急行しているではないか。

小田原へついたのが、ちょうど夜の九時半。私が箱根行きのタクシーをつかまえようとすると、巨勢博士が私を制した。

「ちょッと、より道があるんでさア。まア、ちょッと」

博士は私を自動電話の方へひっぱって行った。

「ちょッと、ここの捜査主任に会って行きたいんですよ。捜査主任は知り合いなんです。先に、この署の事件に僕が手をかしてやったことがあるものですからね。警察なんてところは、昼間行くもんじゃありませんや。一人一人会ってみれば、みんな当り前の人間なんですが、商売意識という奴で、警察全体の感じというものは、二度と足をふみ入れたくないものですな」

自動電話のボックスへ行くと、先客があった。洋装の、いかにもスラリとした、ダンサーとでもいうような感じだが、今私たちと同じ汽車で東京から着いたものらしい。