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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

それについて、当時の状況をお尋ねにあがったのですが」

こう巨勢博士が言いかけると、大矢捜査主任の顔色がひきしまった。

「あの事件について、君の方に、何か、きゝこみでもあったのですか」

「いえ、きゝこみというほどのものはありませんが、たゞ、昨日の暮方ですが、ビルマで戦死した筈の倉田安彦という次男坊が、生きて戻ってきたのです。片手、片足、失明、オシ、という現代版丹下左膳となりましてね。御存じですか」

「いや、知りません。然し……」

彼の顔色の改まるのが、一様ではなかった。私は知っているが、警察官も、巡査と違って、犯罪の現場で叩きあげた刑事とか捜査主任などゝいうものが、めったなことで顔色の改まるのを人に見せはしないのである。さすがに彼は、直ちに顔色を和げて、

「巨勢君。そんな話があるなら、おきゝしたいのは、こっちの方ですよ。いったい、どうして、それが君に知れたのですか」

巨勢博士は現代版丹下左膳の帰還について、定夫と美津子が二つの手型の鑑定をもとめに来たこと、二つの手型が明かに同一人のものであることを説明した。

「もう一つ、附録があるのですが、安彦氏が公一事件の犯人を知っているということを御存じですか」