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しそうとしてのぶんがく

思想としての文学

戸坂 潤

「思想としての文学」三笠書房、1936(昭和11)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,809 字 · 408 页

青空文庫

そこで考えられる一つのものは、云わば内部的な経験(直観)に訴えるということだ。何か道徳的な直観があって(モーラル・センスとかモーラル・センチメントとか)、之に訴えれば統一的な万人共通の客観的な道徳律を見出せるとなれば、人間性研究の一つの結果は得られるわけだ。そこで常識が、丁度そうした道徳的な共通の感覚=直観(モーラル・コモンセンス)として選ばれたのである。

無論この道徳的共通直観は、必ずしも狭い意味に於ける道徳乃至倫理の世界に限られていたのではなく、広く人間性全般に及ぼされるものであって、独り倫理的判断に限らず、審美的な判断でも知的判断でも、この主観的な直覚によって初めて社会的に客観的に共通な判断内容を得るわけである。外部的経験論によって有たされた権威を、そのまま内部的経験に、直覚に、移すことによって、経験のもつ確実さと、人間性というものの有つ共通性とを結びつけたものが、この常識という一種独特の観念だと云っていいだろう。

常識学派による常識はだから、経験論に由来するこうした一種の直観主義に立脚するということになったわけだが、併しこの常識はただの直観とは云えない点を有たされている。