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しそうとしてのぶんがく

思想としての文学

戸坂 潤

「思想としての文学」三笠書房、1936(昭和11)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,809 字 · 408 页

青空文庫

之は知れ切った事実だ。文学的表象は、科学的範疇に一身上の(個人独自の又は人間群共通の)ニュアンスを与えたものだと云ってもいいだろう。このニュアンスにプロメテウス的な構想と暗示の自由とが見られたのである。

だが文学的表象と云った処で、別に特別な言葉を考え出すわけではない、赤は矢張り赤のことで、青はやはり青のことだ。ただ、赤い革命とか青白い情熱とか云うだけのことである。そこで、ウッカリしていると、この一身上の主体的なニュアンスを有った文学的観念が、何かそのまま、理論に出て来る概念と同じものと考えられたり、理論的概念の代用物でもあるかのように思われたりし始める。つまり死ぬことは理論的には生物的な死と社会的な死亡とのことだが、夫が文学的に表象されると、死ぬことは生きることであり、生即死だということになる。文学的表象としては夫は大いによろしいのだが、併し生即死的な社会科学的理論体系を造られては、戦死者も親子心中者も政治犯死刑囚も、浮ばれないだろう。

文学的表象をウッカリ誤用すると、このプロメテウスはとんでもないことをやり始める。文学的表象が独力で理論体系を打ち立てる。