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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页
「わしの料紙筥の底をさがしてごらん。そなたの父のお書きなされた綴ものが二帖ある。風を通したこともないから、もう虫が蝕っているかもしれません。こんど雨の夜にでも、そっとここへ持って来て読んでごらん。わたしも眼をつぶって聞いていましょう。……そなたの父御は、乱国の野武士で、文字もろくに書けなかったお人だから、元より文章も読みづらく、おかしな節々もあるけれど、人に示そう為でなく御自分の懺悔を、真実こめて、書けない筆でいつか書いておかれた物。……中には私の知っているところもある、足らないところはわたしが話しましょう。わたしの枕元で読んでごらんなさい」
それから宗一は、母の料紙筥を取出し、母の前で開けてみたところ、果たして黴くさい二帖の綴文があらわれた。
その夜、彼は、父と太閤との、奇しき前身や縁故をつぶさに知ったけれど、世は治まり、大坂城は時めくそのころ、かようなことは、人に語るも畏れありと、焼き捨てようと考えたが、屋敷ではつい人目があって果せず、父の忌日に、寺へ持って行って、密かに処置を託したところ、寺では正しく護摩壇で焔にしてはくれたが、物好みな僧がいつのまにか、それを写して別本を秘しておいたらしいのである。