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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
吉川英治『柳生月影抄 名作短編集(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:柳生月影抄、下頭橋由来、脚、べんがら炬燵、大谷刑部、鬼、春の雁、旗岡巡査、茶漬三略。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 页
三
「いよっ、めでとうござる」
と、抜け歯の間から、ほざいた。
彦太だけは、浅ましいものへそむけるように、顔を伏せていた。そして、無駄に消費される酒だの、祝い物だのを、今でもかすかに残っている彼の百姓気質が、勿体ないものだと感じていた。しかし、それを贈ってくれた人々の好意も、伯父夫婦の派手な散財も、気の毒とは、ちっとも思わなかった。
「どうせ今に、炎の中へ、捨てられる物だ」
そう考えていたからである。
三
酔う者は、酔いつぶれ、帰る人々は、帰った。聟である彦太と、花嫁である家付きの娘とは、当然、一室へはいった。
「悪い気持じゃないなあ」
彦太は、生れて始めて、ひっそりした深夜の灯と金屏風とに囲まれて、女性と向いあうのだった。
家付きのお縫は、灯のそばに、凍った寒椿みたいに、じっと、俯向いていた。彦太は、こんな美しい襟あしを見たことはなかった。
生涯、この家に、踏みとどまる気のない彦太は、肚をきめた最初に、売物の士格の添え物に過ぎない娘には、当然、良夫としての行為は避けようと考えていた。今夜の席にいる間も、その考えは、変らなかった。
だが、彦太は、彼女のにおいと襟あしが誘うものに、勝てなかった。