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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

持病の退屈がけし飛んでしまうこと

「ハハハハハ、何を云ってるんだ。冗談はよし給え」

「アア、そうだった。君は品川君だね。もう一人の男じゃなかったのだね」

愛之助は、そう云ったまま、ふいと格子戸の外へ出て行った。

まるで悪夢につかれた人間のように、彼の足は蹌踉として定まらないのであった。

持病の退屈がけし飛んでしまうこと

別宅へ帰って見ると、よく掃除の行届いた小ぢんまりとした家の中に、芳江は婆やを相手に、つつましく留守番をしていた。

狭い家だから、夫婦の寝室は襖一重だった。二階の八畳の客間の方に愛之助の、六畳の次の間の方に芳江の床がのべてあった。

愛之助が床に這入って、仰向きになって煙草を吸っていると、その枕下の桑の角火鉢によりかかる様にして、芳江は何かと話しかけるのであった。

それは主に滞京中の遊楽予定についてで、久し振りの歌舞伎が楽しみだとか、福助が早く見たいとか、何日の音楽会は誰さんのピアノが一番聴きものだとか、女の癖に東京風の牛鍋が早くたべたいとか、とか、とか、とか、甚だ朗かで且饒舌であった。

彼女の好みで旅行にさえ持って出る、部屋着の派手な黄八丈の羽織を着て、ウェーヴがくずれて、恰好のよい頭の形のままに、少しネットリとなった洋髪の下から、なめらかな頸筋が覗いていた。