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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

わたくし共は、大牟田家の諒解を得まして、今月二十一日、結婚式を挙げることに定め、目下嬉しい準備を急いでいる次第であります。……」

まだ結びの言葉を言い切らぬのに、忽ち起る拍手の嵐、祝辞のつぶて。「里見老人万歳」の声さえ聞え、四方八方から、喜びの握手を求める手首が、ニョキニョキとわしの身辺に迫って来た。

だが、わしはそれらの人々に見向きもせず、ただ姦夫川村義雄の顔を凝視していた。少からぬ興味を以て、彼の表情を見つめていた。

川村の顔色は、最初驚きと恐れの為に、真青になったが、次には燃え上る憤怒に火の様に赤くなり、果ては限りなき苦悶の為に、恐ろしい紫色にふくれ上った。

彼の両眼は、異様な光を放って、食い入る様にわしの顔を睨みつけていた。わしはと云うと、彼の物々しい表情とはあべこべに、さも朗かな微笑を浮べてまじまじと彼を見返していた。

一しきり騒ぎ立てた人々も、何となくただならぬ気配を感じたのか、ふと黙り込んで、我々両人の奇妙な睨み合いを注視した。

川村は唇をピクピクと痙攣させた。何か云おうとするけれど、激情の余り、声さえ思う様には出ないのだ。併し、やっと彼は云った。