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はくはつき
白髪鬼
江戸川 乱歩
「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页
白髪の花婿
白髪の花婿
白髪の老人が婚礼をするというのだ。人々は驚きの目を見はった。次には耳も聾せんばかりの拍手、そして、
「一体全体どこの婦人だ、その仕合せな婚約者は。サア、早くそれを発表し給え」
八方から好奇の叫び声が起った。無理はない。女嫌いで通っていたわしが、突然、思いもよらぬ披露を始めたのだ。
わしはその婦人の名を云う前に、正面に着席している川村の顔をじっと見つめた。川村は面喰った様に目をパチパチやりながら、気のせいか、少し青ざめた様に見えた。
「わたくしの婚約者は処女ではございません。併し、如何なる処女よりも清く、如何なる処女よりも気高く、如何なる処女よりも美しい人です。と申せば、皆様には已に御想像がつくでありましょう。S市広しと雖も、わたくしの婚約者を外にして、その様な婦人は一人も存在しないのであります」
わしは一世一代の惚気演説をやった。流石社交界のつわもの共も、一言を発する者もなく、あっけにとられて八方からわしの顔を見つめていた。
「左様です。皆様が御想像なされた通り、それは子爵大牟田敏清の若き未亡人瑠璃子でございます。わたくしは、この町に帰りまして以来、瑠璃子と清き交りを続けて居りましたが、交るに従って、いつしか彼女の純情が女嫌いのわたくしを飜然改宗せしめるに至ったのであります。