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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

恐ろしき笑顔

「高い声では申せませんが、大牟田の若様は申分のない方でしたが、それに引きかえ、奥様の方は、どうもちと、……」

と言葉をにごす。

奥様とは云うまでもなく、我が妻瑠璃子のことだ。あのいとしい瑠璃子を「奥様がどうもちと」とはけしからぬ云い草だ。こいつ気でも違ったのではないかと、腹立しく思ったが、先を聞かねば、何となく気になるものだから、

「奥様がどうかしたのかね」

と尋ねると、主人は待ってましたと云わぬばかりに喋り出す。

「どうもせずとも、あの美しい顔がいけないのです。男の目には、天女の様にも見えましょうけれど、天女だって油断が出来ませんからね」

益々異様な言葉に、わしはもう目の色を変えて、

「それはどういう訳だ。お前さん何か知っているのか」

と主人につめよった。

アアこの老人、我が妻瑠璃子について、抑も何を語ろうとするのであろう。

恐ろしき笑顔

「あの笑顔がくせ物ですよ。私の家内も丁度あんな風な笑い方をしたものです」

と古着屋の主人は益々妙なことを云い出す。

「お前さんのお神さんがどうかしたのかね」

「家内ですか。家内は私がこの手で殺してしまったのです」

亭主は薄暗い電燈の下で、影の多い顔を不気味に歪めて陰気な口調で答えた。