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はくはつき
白髪鬼
江戸川 乱歩
「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页
奇妙な約束
復讐事業の目的の一半は見事に達せられたのだ。併し、まだ姦婦瑠璃子が残っている。あの美しい売女めを思う存分の目に合わせてやるのが、わしの復讐の最大眼目であった。墓穴から甦って来た白髪鬼の最後の望みであった。
妙な例えだけれど、子供がご馳走をたべる時、一番おいし相なものをあと廻しにして、拙いものから箸をつけて行く様に、わしは左程でもない川村義雄を先ず最初にやッつけた。そして肝腎の瑠璃子をあとの楽しみに残して置いたのだ。大事にとって置いたのだ。
ところで、今こそ、あの最上の珍味に箸をつける時が来た。あの美しい人鬼を心行くまでぶちのめす時が来た。わしはもう何とも云えぬ異様な期待の為に心臓が破れ相であった。ともすれば、飛んでもない流行歌などを大声にわめき相になって、ハッと口を押える事も屡々であった。
あんた方は、復讐鬼の舌なめずりを不快に思いますか。わしを憎みますか。イヤ、お隠しなさるな。あんた方の顔は妙に歪んでいるじゃありませんか。あんた方の目は、何かいまわしい獣物でも見る様にわしを睨みつけているじゃありませんか。尤もです。わしは当時復讐の一念にこり固まった一匹の獣物でしかなかった。