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はくはつき
白髪鬼
江戸川 乱歩
「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页
穴蔵へ
瑠璃子はまだ少しも真相を悟らず、しかも、気絶する程の恐怖を味ったのだ。彼女の気絶はこれが二度目であった。二度もそんな目に逢いながら、わしの正体を看破出来ぬとは、彼女程の妖婦としては、余りにも迂闊な様に思われるかも知らぬが、一度墓穴に埋葬された男が、白髪の老人となって生き長らえているという、この事実の奇怪さが、人間の想像力を越えていたのだ。決して瑠璃子の迂闊ではなかった。
さて、その夜の披露宴も、S市始まって以来の華かさで、滞りなく終った。わしと瑠璃子とは、ヘトヘトに疲れて、ホテルの広間から、わしの新居へと帰りついた、芳醇な酒の香、かしましいお祝いの言葉、蜘蛛の巣の様にからみつく五色のテープ、耳を聾する音楽の響、それらのものが、いつまでも頭にこびりついて離れなかった。何かこう紫の雲に包まれて、春の空を漂ってでもいる様な気持であった。イヤ、少くとも瑠璃子丈はそんな気持であったに違いない。
帰宅して、婚礼の衣裳のままグッタリとソファに凭れて、お茶を飲んでいると、鳩時計がホウホウと十二時を報じた。
「お前眠くはない?」
「何だか妙ですわ。ちっとも眠くありませんのよ」