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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

「ハハハハハハハハ、イヤ、皆さん、飛んだお騒がせをして実に申訳もありません」

わしは、少しも取乱さず、朗かに笑いながら云った。

「川村君は何か感違いをなすっている様です。でなければ今晩の歓迎会の主催者であるわたくしに対して、こんな乱暴をなさる筈はない。川村君、どうしたのです。君のやり方は好意を仇で報いるというものですよ。それとも何か、僕に不満でもあるのですか。それなれば、のち程ゆっくり聞こうじゃありませんか。何もこの席であばれる事はありません」

だが、川村はやっぱり石の様に突立ったまま、それに答えようともしなかった。異様な沈黙の中に、再び奇妙な睨み合いとなった。が、暫くすると、彼は突然クルッとうしろ向きになって、椅子をガタガタ云わせながら、恐ろしい勢でドアの方へ歩いて行った。一言の挨拶もせず、歓迎宴の席を立去ろうとするのだ。

「川村君、用事があったら、Y温泉の別宅へ来てくれ給え、僕は今夜はあすこへ泊ることになっている」

わしは立去る川村の背中へ、声をかけた。

川村は、確にそれを聞取ったが、振向こうともせず、唖の様にだんまりで、ドアの外へ消えてしまった。