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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

儀式の順序に従って、わしは用意の指環を花嫁の指にはめてやり、誓いの言葉を述べた。

すると、突然、実に変てこな事が起った。美しい花嫁の唇から、絞め殺される様なうめき声が漏れたかと思うと、彼女の身体は棒の様に倒れて行った。わしが飛びついて、抱きとめるのが一秒おくれたら、この盛装の花嫁御は、神様の祭壇の前に、不様にひっくり返っていたに違いない。

何が瑠璃子を卒倒する程も驚かせたのか。外でもない。今彼女の指にはめてやった指環と、誓いの言葉を述べたわしの声とであった。

彼女は嘗つて故大牟田敏清の手ずから、結婚の指環をはめて貰ったことがある。それは敏清の死後宝石箱の中へしまい込んでいたのだが、その時の指環と、彫刻から石の形まで寸分違わぬ指環を、今第二の夫であるわしがはめてくれたのだ。

彼女はわしの姿に大牟田子爵の幽霊を見て云い知れぬ不安に襲われていた。その幽霊が嘗て子爵がしたのと全く同じ仕方で、全く同じ彫刻の指環を、彼女の指にはめたのだ。これがギョッとせずにいられようか。

その上わしの声だ。長い間作りに作っていた里見重之の音調をやめて、持って生れた大牟田敏清の声を聞かせてやったのだ。