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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

わしは彼女の足首を掴むのがやっとだった。

それから、組んずほぐれつの、醜い格闘が始まった。燕尾服を着た白髪の老紳士と、殆ど裸体になった美人とのとり組みだ。瑠璃子は、獣物の様な叫び声を発しながら、歯をむき出し、爪を立てて、死にもの狂いに武者振りついて来た。

黒と白との二つ巴が、地底の洞窟を、物の怪の様に転がり廻った。

併し、如何にたけり狂えばとて、彼女は到底わしの敵ではなかった。遂にヘトヘトになって、白い肉の塊りの様に動かなくなってしまった。

死んだのではないかと、覗いて見ると、彼女は確に生きていた。息も絶え絶えに生きていた。

「では、これがお別れだ。お前は永久にこの墓穴にとじこめられたのだ。わしの苦しみがどんなであったか、ゆっくり味わって見るがいい」

わしは云い捨てて、洞窟を走り出で、外から鉄の扉をしめ、鍵をかけた。かつて私が抜け出した、あの一番奥の棺桶の底からの抜け道は、石でふさいでしまってある。瑠璃子は絶対に逃げ出す見込みはないのだ。

わしの復讐事業は全く終りをつげたのだ。あとは、どこか遠くの土地へ高飛びしてしまえばよいのだ。余生を送る費用は、充分用意がしてあるのだから。