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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

「わしは、百万円持っている。これをみんなやるから、ここから出してくれ」

若しこの穴蔵に主人があって、わしが監禁されているのであったら、その一言で、たちまち自由の身となることが出来るものを。

と思うと、巨万の富も、この様な場所では、石ころ同然であることが分って来た。百万金よりも、一片のパンの方が有難い。一杯の水の方が望ましいとは、何という変てこな立場であろう。事実、わしはペコペコに腹が減っていたし、痛い程喉が乾いていたのだ。

まるで夢か、お伽噺みたいな、莫大な財宝の発見に、一時は有頂天になった丈けに、それが、ここでは石ころ同然だと分ると、わしは、ガッカリしてしまった。

何という運命のいたずらであろう。失望させて置いて喜ばせ、喜ばせたかと思うと、今度は又もやさか落しに奈落の底だ。その度毎に、わしの苦しみは、恐れは、悲しみは、二倍になり三倍になって行くのだ。

わしは、百万円の棺に凭れて、グッタリとしたまま、長い長い間、身動きもしなかった。他人が見たならば、きっと「絶望」という題の彫刻そのままであろう。絶望の極、智恵も力も抜けてしまったのだ。

と、その虚に乗じて、女々しい感情が群がり起る。