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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

奥の方から順番に並べて行く慣例だから、一番手前の棺が、一番新しい死人を葬ったものに相違ない。

わしは、十七歳の折父の葬式に列したきり、この墓穴へ近づいたこともないけれど、ここへはわしの分家のものなども、埋葬されることになっていたから、一番手前の棺には、存外新しい死骸が入っているかも知れぬ。エエと、わしの親戚で、ごく最近なくなったのは誰であったか。

オオ、そうだ。分家の娘のお千代が死んでいる。分家といってもわしの家とは永らく仲たがいになっていて、日頃余り行来をせぬけれど、墓場丈けは、先祖からのならわしで、ここへ葬ったのをちゃんと覚えている。

それを知ると、わしはもう、耐らなくなった。本当に腹の減った気持を知らぬみなさんには、この時のわしの喜びを想像することは出来まい。まさか、なんぼなんでもと、みなさんはきっと顔をしかめるだろう。

だが、浅間しいことに、わしはニヤニヤと笑い出したのだ。肉食獣が獲物を見つけた時の様に、我を忘れて、鼻をヒクヒクさせ、舌なめずりを始めたのだ。

わしは金属製の燭台を握ると、ゴソゴソとその新しい棺の方へ這い寄って行った。どうして蓋をこじ開けたのか、もう無我夢中であった。