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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

わしは、ムチムチと肥え太った、若い娘の肉体を幻に描いていた。それが非常な魅力で野獣の食慾をそそった。わしは恐ろしい肉食獣になり果てていたのだ。

蓋をこじ開けると、片手をさし入れて、中を探り廻った。先ず指に触れたのは、冷い房々とした髪の毛であった。わしはもう、喉をグビグビ云わせながら、嬉しさに夢中になって、その髪の毛を握りしめ、グイと持上げようとした。

持上げようとした拍子に、わしは力余って、うしろへ倒れてしまった。髪の毛の根元には何にもなかったのだ。肉が腐って、抜け落ちたのであろうと、更らに手を入れて探って見ると、いきなりゴツゴツした固いものに触った。なで廻して見ると、乾き切った頭蓋骨だ。洞穴の様な二つの眼窩だ。唇のないむき出しの歯並だ。

胸にも腹にも、カラカラの骨の外には、柔かいものは少しもない。肉も臓腑も、蛆虫の為に食い尽され、その蛆虫さえ死に絶えてしまったものであろう。

アア、その時のわしの失望はどれ程であったろう。若い娘のふくよかな肉体を幻に描いて、夢中になって、僅かに残っていた最後の精力を使い果してしまったのだ。絶望の極、もう身動きをする力もなかった。