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だいにのせっぷん

第二の接吻

菊池 寛

「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页

青空文庫

二

「ええもうちょっと。」

「どうせ、僕が後で手を入れますから、ある程度でよろしいのです。」

「そうですか。」

村川は、素直に答えたが、何だか少し馬鹿にされたような気がした。

彼が訳し終ったのは、一時過ぎていた。十枚に近い仕様書だが、あまり長くかかりすぎたのが自分でも気持がわるかった。

宮田の所へ、おそるおそる持って行くと、宮田は意外に機嫌がよかった。

「村川君、社長が今晩、君に夕飯をご馳走するそうだから、そのつもりでいてくれたまえ。」

村川は、平生だったら、むしろ喜んだに違いない。しかし、身体も心も、平静を失っている今日は王様の招待でも断りたかった。

「今日僕は……」

「断りなんかいうものじゃないよ。社長が、折角君と話がしたいといっているんだもの。」

村川は仕方なく承諾した。

二

「君は、今日は主賓だから、そっちへかけたまえ。」

宮田は、補助座席へ腰かけようとする村川を、無理に今井の傍へかけさせ、自分は村川に対して腰をかけた。

宮田は、今井とは中学校が同じだということだった。そのために、庶務課長として、信任があるばかりでなく、彼は今井の遊蕩生活において取巻であり、お相手であるらしかった。