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くいどうらく

食道楽

村井 弦斎

春の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,757 字 · 321 页

青空文庫

第一 腹中の新年

物を炙り物を煮るも火力平均するがため少しくその使用法に馴るれば仕損ずる気支なし。費用は薪炭の時代に一日壱円五十一銭を要せしが今は瓦斯代九十五銭を要するのみ。即ち一日に五十六銭の利あり。然れども瓦斯の使用は軽便と清潔と人の手数とを省く点において費用の減少よりもなお大なる利益あり。

文明の生活をなさんものは文明の台所を要す。和洋の料理を為さんものはよろしくこの新考案を学ぶべし。

第一 腹中の新年

今日は正月の元日とて天地乾坤自ら長閑なる中にここにも春風の浸みて来にけん。腹の中にて新年を祝する胃吉と腸蔵「オイ胃吉さん、おめでとう」胃吉「ヤアこれは腸蔵さん、去年中は色々お世話さまでしたね。また相変りませずか、アハハ。時に腸蔵さん、今日は正月の元日といって一年に一度の日だからお互に少し楽をしたいね。私たち位年中忙しくってみじめなものはないぜ。娑婆の人間は日曜日だの暑中休暇だのと一年中には沢山な休みがある。いくら忙しい奉公人でも盆と正月に藪入があるけれども私たちばかりは一年中休みなしだ。私は一日に三度ずつ働いていれば自分の役が済むのにここでは間食が好きで三度の外にヤレ菓子が飛込む、団子が飛込む、酒も折々流れ込むからホントに溜ったものでない。