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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
奇妙な取引
ひるむ心をはげまして、彼はうなだれた娘の顔を覗き込んだ。アア、果して果して、彼女は文代ではなかった。明智も二郎も熟知している全く別の女性であった。
驚くべき魔術師の怪技。いつの間に、どうして、しかもこの娘が!
流石の名探偵も、
「アッ」と叫んだまま、次に採るべき手段を考える力さえ失ってしまった。
奇妙な取引
人違いだ。文代ではない。薄暗いので、今の今まで気附かなかったが、文代と同じ服装をした、別の娘だ。アア、何という早業、いつの間に、人間のすり替えが行われたのであろう。
だが、もっと驚くべきことは、その娘が、知らぬ人でなかったことだ。知らぬどころか、大森外科病院の病室に寝ているとばかり信じていた、玉村妙子その人であったことだ。
彼女は、さっき明智が、文代にした通り、グルグル巻きに縛られ、猿轡をはめられて、物を云うことも、身動きすることも出来ず、涙に濡れた青ざめた顔で、じっと二人を見つめている。
明智も二郎も、それを見ると、「アッ」と云ったまま立ちすくんでしまった。
「ハハハハハ、魔術師の早業がお目にとまりましたか。流石の名探偵どのも、ちと面喰いの形ですね」